二人の優秀な指揮官より、一人の凡庸な指揮官のほうが、よほど有益である。

なぜ「船頭二人」は船を山に登らせるのか?マキャベリに学ぶリーダーシップの本質

「二人の優秀な指揮官より、

一人の凡庸な指揮官のほうが、

よほど有益である。」

私たちは、プロジェクトやチームを成功させるために、

優秀なリーダーを複数人置きたくなるものです。

しかし、二人の優秀な指揮官が同時に指揮を執ると、

かえって混乱を招くことがあります。

それでは、なぜ、優れた才能が複数集まることが、

組織にとっての弱点になるのでしょうか?

今回ご紹介する

「二人の優秀な指揮官より、一人の凡庸な指揮官のほうが、よほど有益である」は、

政治思想家ニッコロ・マキャベリの言葉です。

この言葉は、組織における

統一された意思決定の重要性を説く、

非常に深い知恵を提供します。


マキャベリが説く「指揮系統の一元化」

『政略論』の教え:勝利の鍵は統一

この言葉は、マキャベリの著書『ディスコルシ』(政略論)に

記された一節から、その思想を要約したものです。

原文の現代語訳は次の通りです。

原文

故に、一人の凡庸な指揮官が率いる軍は、

二人の優秀な指揮官が率いる軍よりも優れている。

なぜなら、二人の指揮官が意見を異にすれば、

軍は混乱し、最終的には敗北するからである。

マキャベリは、ローマ共和国の歴史を研究しました。その結果、彼は、軍事行動においては、

指揮系統の一元化が、勝利の鍵であると結論付けました。

優秀さが混乱を招くメカニズム

「二人の優秀な指揮官」とは、

それぞれが優れた才能と独自の戦略を持つリーダーを指します。

ここで問題が発生します。

彼らが異なる意見や方針を持つと、

軍はどちらに従うべきか迷ってしまいます。

すなわち、命令系統が混乱します。

この混乱は、軍の行動を鈍らせます。

さらに、士気を低下させます。

その結果、最終的には敗北につながります。

一方、「一人の凡庸な指揮官」とは、

突出した才能はないものの、

明確な方針と統一された指揮を執るリーダーです。

彼の指揮下では、軍は迷うことなく

一つの目標に向かって行動できます。

したがって、その実行力は、

二人の優秀な指揮官が率いる軍よりも

優れているとマキャベリは考えました。

【用語解説】

  • 指揮系統の一元化(しきけいとうのいちげんか): 命令や指示を出す権限を一人のリーダーに集中させること。
  • 凡庸(ぼんよう): 特に優れていないこと。ここでは「突出した才能はないが、明確な指揮を執る者」を指す。

歴史が証明する「一つの声」の力

ナポレオン軍の圧倒的な優位性

文化圏や時代が異なる事例として、

フランス革命期の英雄、ナポレオン・ボナパルトの軍隊は、

この言葉を体現するものです。

ナポレオンは、軍の最高指揮官として、

すべての戦略と戦術を自らが決定しました。

彼の指揮下では、部下の将軍たちがどんなに優秀であっても、

ナポレオンの命令に絶対に従うことが求められました。

このように、強力な中央集権的な指揮系統により、

彼の軍隊は迅速かつ一貫した行動が可能となりました。

その結果、ヨーロッパ各地で圧倒的な勝利を収めました。

分裂した連合軍の敗北

他方で、ナポレオンと対峙した

オーストリアやロシアなどの連合軍を考えてみましょう。

連合軍は、複数の将軍がそれぞれの思惑で

指揮を執ることが頻繁にありました。

そのため、しばしば命令系統が混乱しました。

当然ながら、彼らはナポレオンの前に敗れ去りました。

これは、一人の卓越したリーダーによる統一された指揮が、

複数の優秀なリーダーによる分裂した指揮よりも

優位に立つことを示す典型的な事例です。

この事例は、リーダーの個人的な能力の高さよりも、

組織の意思統一が重要であることを強く示唆しています。

【出典】

『ナポレオン伝』など

現代ビジネスにおける「二頭政治」の危険性

このマキャベリの教えは、

現代の共同経営(コーポレート・ガバナンス)にも通じます。

【用語解説】

  • コーポレート・ガバナンス: 企業統治。企業が公正かつ効率的に運営されるための仕組み。

例えば、CEO(最高経営責任者)とCOO(最高執行責任者)が

対等な権限を持ち、激しく対立した場合を想像してください。

両者が優秀であればあるほど、

それぞれの主張がもっともらしく聞こえます。

しかし、現場の社員はどちらに従うべきか判断に迷います。

その結果、組織全体が機能不全に陥り、

意思決定が麻痺してしまうのです。

したがって、現代の組織においても、

最終的な決定権を持つ「ただ一人のリーダー」が必要不可欠です。


現代のリーダーシップへの応用:決断の責任

リーダーが持つべき「目的の一致」と「方向性の統一」

この言葉の本質は、組織における

「目的の一致」と「方向性の統一」の重要性にあると考えられます。

私たちは、より良い成果を出すために、

多くの意見を取り入れようとします。

しかし、この言葉は、

多様な意見が時に組織を停滞させる危険性を教えてくれます。

それは、会社のプロジェクトで、

複数の部長がそれぞれ異なる指示を出した結果、

現場が混乱し、誰も動けなくなるようなものです。

大切なのは、全員が納得する答えを探すよりも、

一人のリーダーが責任を持って決断することです。

この決断力こそが、組織を前進させます。

1. プロジェクトマネジメント:曖昧さを排除する

ビジネスにおけるプロジェクトマネジメントの場面で応用できます。

例えば、新しい製品を開発する際、

複数の部門長がそれぞれの専門知識から異なる意見を出します。

そうなると、開発の方向性が定まらず、

プロジェクトは遅延する可能性があります。

マキャベリの思想を活かしましょう。

プロジェクトマネージャーは、

すべての決定権を一手に引き受けます。

そして、明確な方向性を示します。

これにより、メンバーは迷うことなく、

一つの目標に向かって効率的に作業を進めることができます。

2. 人事評価システム:評価基準の統一

異なる事例として、人事評価システムへの応用も可能です。

複数の評価者(リーダー)がいる場合、

各自が独自の基準で部下を評価すると、

評価に偏りが生じます。

その結果、社員の間に不公平感が生まれます。

さらに、組織全体の士気が低下します。

しかし、リーダーシップチームが協力し、

評価基準を一元化し、一人の責任者が最終確認をすることで、

公平性が保たれます。

つまり、基準を一つに定めることで、組織の方向性が統一されるのです。

3. M&A後の組織統合:スピードを重視する

M&A(合併・買収)後の組織統合の場面で応用できます。

【用語解説】

  • M&A(エムアンドエー): Mergers (合併) and Acquisitions (買収) の略。企業の合併や買収のこと。

M&A後の組織統合では、

旧A社と旧B社の文化や慣習が衝突しがちです。

もし、両社のトップが対等な権限で

意思決定を行うと、摩擦が増大します。

したがって、新しい組織では、

統合の最終的な責任を負う「一人のリーダー」を任命しましょう。

このリーダーが迅速かつ明確な方針を示すことで、

組織は無駄な議論を避け、統合を成功させることができます。


まとめ:決断こそがリーダーの仕事

この記事を通して、マキャベリの言葉が、

いかにして組織における「目的の一致」と「方向性の統一」の重要性を教えてくれるかを見てきました。

大切なのは、優れた才能が複数集まることよりも、

その組織が進むべき道が明確であることです。

リーダーが一人、責任を持って決断を下すことで、

チームは迷うことなく一つの目標に向かって突き進むことができます。

もしあなたが、今、チームや組織の方向性に迷いを感じているなら、

この言葉を思い出してみてください。

全員が納得する答えを探すよりも、

一人のリーダーが責任を持って決断を下すことで、

事態は必ず好転するでしょう。


専門用語解説

用語読み方解説
ニッコロ・マキャベリNiccolò Machiavelli15世紀から16世紀にかけてのイタリアの政治思想家。著書に『君主論』や『ディスコルシ(政略論)』がある。
『ディスコルシ』(政略論)Discorsi sopra la prima deca di Tito Livioマキャベリが執筆した政治思想書。古代ローマの歴史家ティトゥス・リウィウスの『ローマ史』を基に、共和制や国家のあり方を論じている。
指揮系統の一元化しきけいとうのいちげんか命令や指示を出す権限を一人のリーダーに集中させ、組織全体がその命令系統に従う体制。
凡庸ぼんよう特に優れていないこと。ここでは「突出した才能はないが、明確な指揮を執る者」を指し、統一されたリーダーシップの重要性を強調する文脈で使われる。
コーポレート・ガバナンスCorporate Governance企業統治。企業が公正かつ効率的に運営されるための仕組みや体制。
M&AエムアンドエーMergers (合併) and Acquisitions (買収) の略。企業の合併や買収のこと。