私たちの知性は常に明確さと確実性を求める一方で、本質的な性質はしばしば不確実性に魅了される

「確実性」と「不確実性」の葛藤|人間が持つ二つの心

あなたは、物事をはっきりとさせたいと思う一方で、先の見えない展開に心惹かれたことはありませんか?

私たちの心の中には、相反する二つの性質が共存しています。

論理的に物事を分析し、完璧な答えを求める心。

しかし、論理では割り切れない、予測不能な出来事に魅了される心も持っています。

この人間の普遍的な葛藤を、鋭く見抜いた人物がいました。

軍事戦略家、カール・フォン・クラウゼヴィッツです。

彼の言葉は、私たちの心の奥底にある、この二面性を浮き彫りにします。

本記事では、この言葉が教える人間の二面性を理解し、現代の混沌とした状況を乗り越える知恵を学びます。


古典の解説:クラウゼヴィッツ『戦争論』の洞察

1. 原文の現代語訳と詳細

この言葉は、プロイセン(現在のドイツ)の軍人、戦略家であるカール・フォン・クラウゼヴィッツが著した『戦争論(Vom Kriege)』に記されています。

原文(ドイツ語)
Unser Verstand strebt immer nach Klarheit und Sicherheit, während unsere Natur oft vom Ungewissen fasziniert ist.

現代語訳は以下の通りです。

私たちの知性は、常に明確さと確実性を求める。

一方で、私たちの本質的な性質は、しばしば不確実性に魅了される。

2. 「理性」と「本能」の二面性

『戦争論』は、ナポレオン戦争の経験を基に、戦争の本質を哲学的に考察した書物です。

この言葉は、人間が持つ「理性」と「本能」の二つの性質を表しています。

知性が求める「明確さと確実性」:これは、物事を論理的に分析し、結論を導き出そうとする、人間の理性の働きです。私たちは、あいまいな状況を嫌い、安心できる完璧な答えを求めます。これは、ビジネスや科学、日常生活における計画性や秩序の根幹をなすものです。

本質が魅了される「不確実性」:これは、予期せぬ出来事や、ハラハラするような状況に心を惹かれる、人間の本能的な性質です。ギャンブルや冒険、あるいはスポーツの試合に熱中する心理は、この「不確実性」に魅了されているからだと言えます。

クラウゼヴィッツは、戦争という極限の状況において、指揮官がこの二つの性質を同時に抱えていることを指摘しました。

完璧な計画を立てようとする一方で、予期せぬ事態が起こる可能性に心を奪われます。

したがって、この矛盾を理解し、乗り越えることが、真のリーダーに求められる資質だと説いています。

3. 歴史的背景:ナポレオン戦争後の現実

この言葉が生まれたのは、ナポレオン戦争後の時代です。

ナポレオンの登場は、それまでの戦争の常識を覆しました。

そして、戦場に予測不能な要素を多くもたらしました。

クラウゼヴィッツは、この経験から、戦争を単なる計算や計画として捉えることをやめました。

彼は、人間の心理や不確実性といった複雑な要素が絡み合うものとして、戦争を捉え直しました。

(出典:カール・フォン・クラウゼヴィッツ『戦争論』)


類似の事例:東洋の思想に見る「不完全の美」

岡倉天心の「余白の美」

この思想に似た事例は、異なる文化圏の思想にも見られます。

たとえば、日本の思想家、岡倉天心(おかくらてんしん)の言葉にも、この二面性が示されています。

彼は『茶の本』の中で、完璧を求める西洋の文化に対し、日本の茶道が不完全さや「余白」を重んじることを説きました。

これは、論理や計算で割り切れる「完璧さ」(確実性)を求める西洋の視点と、予測不能で不完全なものに美しさを見出す(不確実性への魅了)東洋の視点を対比しています。

文化的に表現された人間の二面性と言えるでしょう。

(出典:岡倉天心『茶の本』)

考察:不完全な人生にこそ面白さを見出す

この言葉の本質は、「私たちは、完璧な答えを求める一方で、完璧ではない人生にこそ、面白さを見出す」という点だと私は考えます。

論理と本能という、相反する二つの心が共存しているからこそ、私たちは複雑で深みのある人生を送れるのではないでしょうか。

私たちは実生活で、この教訓を思い出す場面があるかもしれません。

例えば、あなたは、完璧なデートプランを立てたとしましょう。

しかし、急な雨が降ったり、行きたかった店が閉まっていたりして、計画が崩れてしまったとします。

そのとき、あなたは、計画通りにいかなかったことに落胆するかもしれません。

一方で、予期せぬ出来事によって生まれた新しい発見や思い出に、楽しさを感じるのではないでしょうか。

この言葉は、不確実な出来事にも、人生を豊かにする価値があることを示唆しています。


現代経営への応用:リスクとイノベーションへの態度

1. ビジネスでの応用:計画とアジリティ

新しいプロジェクトを計画するとき、私たちは完璧な計画を立てようとします。

しかし、どんな計画にも不確実性はつきものです。

この言葉を理解していれば、完璧な計画に固執するのではなく、予期せぬ事態にも柔軟に対応できるアジリティを重視します。

成功への鍵は、計画性(確実性)と柔軟性(不確実性の受容)のバランスです。

2. リスクマネジメント:予測不能性の受容

経営層は、リスクを徹底的に分析し、確実性を求めます。

ただし、不確実なリスクを排除しようとしすぎると、イノベーションの機会を逃します。

むしろ、クラウゼヴィッツの教えを応用し、予測不能なリスクにも魅力を感じ、それを成長の機会に変える姿勢が必要です。

3. リーダーシップ:部下の不安と本能の理解

リーダーは、部下が抱える「確実性への要求」に応える責任があります。

その一方で、新しい挑戦やイノベーションには、必ず不確実性が伴います。

リーダーは、部下の不安(知性)を理解しつつも、挑戦への意欲(本能)を掻き立てる必要があります。

すなわち、ビジョンを示すことで、不確実性への「魅了」を組織のエネルギーに変えるのです。

4. まとめ:混沌を乗り越え、より豊かな人生へ

クラウゼヴィッツの言葉は、私たちの心に潜む、「理性」と「本能」の二つの葛藤を教えてくれます。

あなたが完璧な答えを求める一方で、不確実な出来事にも心惹かれるのは、自然なことです。

この二つの性質を理解し、受け入れることで、あなたは人生の混沌(こんとん)を乗り越えることができるでしょう。

そして、より豊かな人生を築くことができるでしょう。


専門用語解説

用語読み方解説
カール・フォン・クラウゼヴィッツかーるふぉんくらうぜびぃっつ18世紀末から19世紀前半のプロイセン(現在のドイツ)の軍人、戦略家。ナポレオン戦争の経験に基づき、『戦争論』を著しました。
戦争論(Vom Kriege)せんそうろん(ふぉんくりーげ)クラウゼヴィッツの主著。戦争を単なる軍事行動ではなく、政治、社会、人間の心理が絡み合うものとして哲学的に分析した書物です。
プロイセンぷろいせん18世紀から20世紀初頭にかけてドイツ北東部に存在した強力な国家。クラウゼヴィッツはこのプロイセンの軍人でした。
ナポレオン戦争なぽれおんせんそう19世紀初頭、フランスのナポレオンがヨーロッパ諸国と行った一連の戦争。戦争のあり方を大きく変え、クラウゼヴィッツの思想形成に影響を与えました。
岡倉天心おかくらてんしん明治時代の美術史家、思想家。英文で『茶の本』を著し、日本の芸術や文化の精神性を世界に紹介しました。
アジリティあじりてぃ「敏捷性(びんしょうせい)」や「機敏さ」という意味。ビジネスにおいては、予測不能な変化に対して迅速かつ柔軟に対応する能力を指します。