人は心中に巣食う嫉妬心によって、誉めるよりもけなすほうを好むものである

「なぜ人は他人をけなすのか?」|マキャベリが暴いた人間の本質

あなたは、他人の成功を素直に喜べない自分に、嫌気がさしたことはありませんか?

また、誰かが素晴らしい成果を上げたとき、なぜかその人をけなすような言葉を耳にしたことはありませんか?

「人は心中に巣食う嫉妬心によって、誉めるよりもけなすほうを好むものである」という言葉は、人間の普遍的な心理を鋭く指摘しています。

これは、ルネサンス時代の思想家、ニッコロ・マキャベリが探求した人間の本質そのものです。

本記事では、私たちの心の奥底に潜む嫉妬という感情の正体と、それとどう向き合うべきかという知恵を学びます。


古典の知見:マキャベリとアリストテレスの分析

1. 思想の源泉:マキャベリとアリストテレス

この言葉は、特定の古典に厳密に記されたものではありません。

しかし、その思想は、マキャベリアリストテレスの著作に深く根ざしています。

私たちは、この二人の知見を合わせて、嫉妬心の正体を解き明かします。

2. マキャベリが説いた「嫉妬」の危険性

この思想の核心は、ルネサンス時代の政治思想家、ニッコロ・マキャベリの著作に見ることができます。

彼の代表作『政略論(Discourses on Livy)』では、政治における人間の嫉妬心がいかに大きな影響力を持つかについて論じています。

マキャベリは、人々は他人の成功を妬むものだと考えていました。

特に、権力や名声を得た者に対し、周囲の人間は嫉妬心を抱きます。

そして、その足を引っ張ろうとするとしました。

なぜなら、彼は嫉妬を政治を動かす重要な要因と見ていたからです。

したがって、指導者はこの感情を理解し、巧みに管理しなければならないと説きました。

(出典:ニッコロ・マキャベリ『政略論』)

3. アリストテレスが分析した嫉妬の感情

一方で、この感情そのものについては、古代ギリシャの哲学者、アリストテレスがより深く分析しています。

彼は『修辞学(Rhetoric)』の中で、嫉妬を以下のように定義しました。

「自分と似たような者が、自分と同じ、または似た境遇にあるにもかかわらず、良いものを得たときに感じる苦痛」

アリストテレスは、人が誰かをけなすのは、その人の成功が、自分自身の価値を相対的に低く感じさせるからだと分析しました。

無意識のうちに相手をけなすことで、自分の心のバランスを保とうとするのです。

つまり、けなすという行為は、自己評価の防御反応であると彼は見抜いていました。

(出典:アリストテレス『修辞学』)

4. 歴史的背景:ルネサンスと権力闘争

マキャベリの思想が生まれたのは、ルネサンス期のイタリアです。

当時、フィレンツェをはじめとする都市国家は、権力や富を巡る激しい争いの場でした。

マキャベリは、この混乱した時代を生き抜くため、人間の理想論ではなく、現実的な行動原理を徹底的に考察しました。


類似の事例:カインとアベルの悲劇

旧約聖書に見る原始的な嫉妬

この思想に似た事例は、異なる文化圏の思想にも見られます。

たとえば、旧約聖書に登場するカインとアベルの物語です。

兄のカインは、弟のアベルが神から受けた祝福(豊作)を見て嫉妬しました。

そして、アベルを殺害してしまいます。

この物語は、人類が持つ嫉妬心の中でも、最も原始的で強い感情が描かれています。

カインは、アベルが自分よりも優れていると神に認められたことによって、自分の存在価値を否定されたと感じました。

その感情が、弟をけなすどころか、命まで奪う悲劇につながりました。

これは、嫉妬心が人間関係にもたらす、悲劇的な結果を示す非常に強力な事例です。

(出典:旧約聖書『創世記』第4章)

考察:「けなす」ことは「自分をけなす」こと

この言葉の本質は、「他人をけなすことは、自分自身をけなすことの裏返しである」という点だと私は考えます。

私たちは、自分にないものを持っている人を見て、初めて嫉妬を感じるからです。

したがって、けなす行為は、自分自身の未熟さや、満たされていない部分を、相手に投影していると言えるでしょう。

私たちは実生活で、この教訓を思い出す場面があるかもしれません。

たとえば、あなたは、誰かが表彰されたり、特別な成功を収めたりしたとき、心の中で批判的な感情を抱いてしまうかもしれません。

その感情は、もしかしたら、その人の成功を素直に認められない、自分の中の嫉妬心から来ているのではないでしょうか。

この言葉は、自分の中の嫉妬心と向き合うことの重要性を示唆しています。


現代経営への応用:嫉妬心の管理と組織運営

1. ビジネスでの応用:リーダーの自己認識

部下や同僚の成功を素直に誉めることができないとき、それは自分の中に嫉妬心があるサインかもしれません。

その感情を自覚し、相手を心から称賛することが重要です。

なぜなら、その行動がチーム全体の士気を高めます。

そして、あなた自身のリーダーとしての成長にもつながるからです。

2. 組織運営:批判的な空気への対処

他人の悪口や陰口を聞いたとき、その言葉の裏にある「嫉妬」という感情を理解しましょう。

そうすれば、感情的に反応したり、その悪口に同調したりすることなく、冷静に状況を判断できます。

むしろ、組織内に批判的な空気が蔓延している場合は、公正な評価と、誰もが努力すれば報われるという希望をリーダーが示さなければなりません。

3. 日常生活での応用:SNSとの向き合い方

SNSで他人の輝かしい生活を見て、落ち込んだり、批判的な気持ちになったりすることがあるかもしれません。

しかし、その感情は、相手の成功に対する嫉妬心から来るものです。

他人と自分を比較するのをやめ、自分自身の価値観や目標に集中することが、心の平穏を保つ上で大切です。

言い換えれば、嫉妬心は、自分の目標を見つけるためのエネルギーに変換できるのです。

4. まとめ:嫉妬からの解放と真の幸福

マキャベリとアリストテレスの言葉は、私たちに嫉妬心という感情の正体を教えてくれます。

あなたが誰かをけなしたいと感じたとき、一度立ち止まって、自分自身の心と向き合ってみましょう。

そうすれば、あなたは嫉妬という負の感情から解放され、他人を心から称賛できるようになるでしょう。

それが、あなた自身を最も幸せにする道なのです。


専門用語解説

用語読み方解説
ニッコロ・マキャベリにっころまきゃべりルネサンス期イタリアの政治思想家。代表作に『君主論』『政略論』があり、人間の理想ではなく、現実的な行動原理に基づいた政治学を説きました。
政略論せいりゃくろんマキャベリが共和制の維持について論じた著作。人間の感情、特に嫉妬心や野心が政治に与える影響を分析しています。
アリストテレスありすとてれす古代ギリシャの哲学者。プラトンの弟子。倫理学、論理学、政治学など幅広い分野に多大な影響を与え、『修辞学』の中で嫉妬の感情を詳しく分析しました。
修辞学しゅうじがくアリストテレスの著作の一つ。人を説得するための技術や、聴衆の感情(怒り、恐怖、嫉妬など)を理解し利用する方法について論じています。
カインとアベルかいんとあべる旧約聖書『創世記』に登場する人類最初の兄弟。兄カインの嫉妬によって弟アベルが殺害された、人類の嫉妬心の起源を示す物語として知られています。
ルネサンスるねさんす14世紀から16世紀にかけてヨーロッパで起こった文化運動。「再生」を意味し、古代ギリシャ・ローマの文化を復興させようとしました。マキャベリはこの時代に生きました。