掩耳盗鈴|「見て見ぬふり」が通用しない理由:現実直視の勇気

自分に都合の悪い事実から目を背けていませんか?

あなたは、問題が起きているのに、見て見ぬふりをしてしまったことはありませんか?

また、自分に都合の悪いことを聞きたくなくて、耳を塞ぎたくなったことはありませんか?

「掩耳盗鈴(えんじとうれい)」という言葉は、そんな私たちの行動に警鐘を鳴らします。

「耳を掩いて(おおいて)、鈴を盗む」と直訳できます。

つまり、自分が耳を塞げば、鈴の音は聞こえないから、誰にも気づかれないだろうと考える愚かさを鋭く指摘しています。

これは、問題を解決するのではなく、ただ現実から逃げようとすることの無意味さを教えてくれるのです。

本記事では、この故事の教訓から、見たくない現実から逃げない勇気を持つためのヒントを得ましょう。


古典の解説:「呂氏春秋」の故事

1. 原文の現代語訳と詳細

この物語は、中国の史書『呂氏春秋(りょししゅんじゅう)』に記されています。

現代語訳
鐘を盗もうとした男が、音を消すために自分の耳を塞いだ。

原文(意訳)の詳細は以下の通りです。

晋の范(はん)氏が滅びたとき、ある人がその家の鐘を盗もうとしました。

鐘は重くて運べなかったので、彼はそれを壊して運ぼうとしました。

鐘を叩くと、大きな音が鳴り響いたのです。

彼は他の人に盗みが見つかるのを恐れました。

そこで、彼は慌てて自分の耳を塞ぎました。

彼は、自分の耳を塞げば、他の人にも音は聞こえないだろうと思ったのです。

2. 故事が象徴するもの:「自己欺瞞」の愚かさ

この故事は、「客観的事実」と「主観的な思い込み」の関係性を説いています。

自己欺瞞(じこぎまん):男は、音が鳴り響いているという客観的な事実を無視しました。そして、自分の耳を塞ぐことで問題を解決できると信じ込みました。これは、自分自身を騙す行為です。

現実からの逃避:耳を塞いだところで、音は消えません。男は、問題に正面から向き合わず、現実から逃避した結果、愚かな行為に走りました。

したがって、この物語は、自分が見て見ぬふりをしても、問題は消えないという教訓を私たちに与えています。

3. 歴史的背景:戦国時代の教訓

この物語が生まれたのは、中国の戦国時代(紀元前475年〜紀元前221年)です。

この時代は、社会や政治の仕組みが大きく変化する激動期でした。

『呂氏春秋』は、そうした時代の中で、旧来の考え方にとらわれず、現実を直視することの重要性を説くために、様々な思想や故事をまとめました。

(出典:呂不韋『呂氏春秋』)


類似の事例:ホロコーストの悲劇と組織の失敗

社会全体が目を塞いだ事例:ホロコースト

この思想に似た事例は、歴史上の多くの悲劇に見られます。

たとえば、第二次世界大戦における、ナチス・ドイツのホロコーストです。

多くのドイツ国民は、ユダヤ人に対する迫害を知りながら、見て見ぬふりをしました。

彼らは、自分の心に蓋をすることで、「自分は何も知らない」という状態を作り出しました。

しかし、その「見て見ぬふり」が、ホロコーストという史上最大の悲劇を加速させました。

これは、社会全体が真実から目を背けた結果、取り返しのつかない事態を招いたという、極めて深刻な事例です。

(出典:ホロコースト関連の歴史書)

組織における「臭いものに蓋」の危険性

この「見て見ぬふり」は、現代の組織でも日常的に起こり得ます。

例えば、企業内で不正会計やハラスメントの兆候が発見されたとしましょう。

責任者や上層部が「事を荒立てたくない」という理由で、その事実から目を背けることがあります。

問題を隠蔽しようとする行為は、まさに現代の「掩耳盗鈴」です。

なぜなら、問題を隠しても、その根本原因は消えないからです。

さらに、隠蔽という行為そのものが、後に企業の信頼を完全に失墜させる最大のリスクになります。

考察:「問題は解決しない」という真理

「掩耳盗鈴」の本質は、「問題は、見て見ぬふりをしても解決しない」という点だと私は考えます。

この故事は、どれだけ自分に都合が悪くても、真実から目を背けてはならないと教えてくれます。

私たちは実生活で、この教訓を思い出す場面があるかもしれません。

たとえば、あなたは、仕事で大きなミスをしたとしましょう。

もし、上司に報告せず、なかったことにしようとすれば、そのミスはより大きな問題となって、いずれ明るみに出るのではないでしょうか。

この物語は、「嘘はいつか必ずバレる」という単純な真理を、力強く教えてくれます。


現代経営への応用:現実直視のリーダーシップ

1. ビジネスでの応用:早期の問題報告

あなたが、プロジェクトで問題が発生したとき、上司に正直に報告しましょう。

問題を隠すのは、まさに「掩耳盗鈴」の行為です。

むしろ、正直に報告し、解決策を共に探すことで、チーム全体の信頼も高まります。

問題の早期発見と報告は、被害を最小限に抑えるためのリーダーシップの証です。

2. リスクマネジメント:データと向き合う勇気

経営層として、不採算部門や業績の悪いデータから目を背けてはいませんか。

しかしながら、そのデータは、会社が直面している客観的な現実を映しています。

問題に正面から向き合うことが、事業の構造改革や、適切なリスクヘッジを行うための第一歩となります。

3. 人間関係での応用:対立からの逃避をやめる

パートナーや家族と意見が食い違い、話し合うのが面倒に感じたとき、問題を先延ばしにしてはいけません。

対立から目を背けても、問題は消えません。

そこで、勇気を出して話し合うことで、関係を修復し、より良い未来を築けます。

4. まとめ:真実を直視する勇気

「掩耳盗鈴」の故事は、私たちに真実を直視する勇気を教えてくれます。

あなたが何か問題に直面したとき、この言葉を思い出してください。

自分に都合が悪くても、現実から逃げないこと。

その勇気が、問題を解決し、より良い未来を切り開くための力となるのです。


専門用語解説

用語読み方解説
掩耳盗鈴えんじとうれい「耳を覆って鈴を盗む」という意味。客観的事実を無視し、自分さえわからなければ問題は解決すると考える愚かで無意味な行為を指す中国の故事です。
呂氏春秋りょししゅんじゅう中国の戦国時代末期に、秦の宰相であった呂不韋(りょふい)が学者たちに編纂させた書物。様々な思想や故事を収録した、雑家の代表的な文献です。
晋の范氏しんのはんし中国の春秋戦国時代にあった晋という国の有力な貴族の一族。この故事の舞台となった家の持ち主です。
自己欺瞞じこぎまん自分自身を欺くこと。都合の悪い現実や真実から目を背け、自分勝手な思い込みで現状を肯定しようとする心の働きを指します。
ホロコーストほろこーすと第二次世界大戦中に、ナチス・ドイツが主導して行ったユダヤ人などの組織的な大量虐殺。多くの人々が、見て見ぬふりをしたことも悲劇を拡大させた一因とされています。