「人の和」こそ最強の武器:チーム作りの普遍的原則
あなたは、優秀な個人の集まりなのに、なぜか成果が出ない組織を不思議に思ったことはありませんか?
どんなに優れた戦略や強力な武器があっても、組織が一つにまとまらなければ、それは力を発揮できません。
古代中国の兵法書『六韜』は、その理由を鋭く見抜いていました。
「それ用兵の道は、人の和にあり」という言葉があります。
これは、戦いに勝つための真の道は、人々の心が一つになることにあると説いています。
単なる兵法の教えではありません。
これは、現代の組織運営にも通じる普遍的な真理です。
本記事では、この言葉を解説し、組織を成功に導く「人の和」の原則を学びます。
故事の核心:太公望が説く「用兵の道」
原文と歴史的背景
この言葉は、古代中国の伝説的な思想家、太公望(たいこうぼう)が著したとされる兵法書『六韜(りくとう)』に記されています。
『六韜』は、太公望が周の文王・武王に兵法を説いたとされる書物です。
武力だけでなく、政治、経済、人材登用といった多岐にわたる統治の知恵が記されています。
| 原文 | 現代語訳 |
| それ用兵の道は、人の和にあり。 | そもそも軍隊を指揮する上で最も大切なのは、人々の心を一つにまとめることである。 |
「人の和」が持つ絶対的な力
「用兵の道」とは、軍隊を指揮し、戦いに勝つための方法のことです。
そして、その最も重要な要素として「人の和」を挙げています。
軍隊がどんなに優れた武器や戦略を持っていても、兵士たちが互いに信頼し、協力し合わなければ、その力は分散し、敵に敗北します。
逆に、たとえ兵力が劣っていても、全員の心が一つにまとまり、同じ目標に向かっていれば、大きな力を発揮できます。
太公望は、リーダーが部下を公正に扱い、個人の能力を尊重し、信頼関係を築くことで「人の和」が生まれると説きました。
罰を恐れて従うのではなく、心からリーダーを慕い、自ら戦いたいと思うような信頼関係の構築が重要であるとしました。
これは、権力による支配ではなく、信頼と共感に基づいたリーダーシップの重要性を示しています。
歴史が証明する「人心掌握」の戦略
この言葉が生まれたのは、中国の周王朝(紀元前11世紀〜紀元前256年)の時代とされています。
この時代は、権力者が人民を力で支配する傾向が強い時代でした。
しかし、太公望は、人心を掴むことこそが真の強さにつながると考えました。
彼の思想は、後の時代の多くの指導者に影響を与えました。
(出典:『六韜』)
類似の事例:武田信玄と「人は城」の教え
「人の和」と組織防衛
この思想に似た事例は、日本の歴史にも見られます。
戦国時代の武将、武田信玄(たけだしんげん)が残した言葉に、「人は城、人は石垣、人は堀」というものがあります。
これは、城や石垣といった物理的な防御施設も重要である、しかし、最も頼りになるのは、人々の結束力であるという意味です。
信玄は、家臣を大切にし、信頼関係を築くことで、強力な武田軍を築きました。
彼は、優秀な人材を積極的に登用し、公正な評価を行うことで、家臣の心を一つにまとめました。
武力や城の強さではなく、「人の和」こそが組織の真の力だと考えた点で、『六韜』の思想と共通しています。
(出典:『甲陽軍鑑』)
組織力を「掛け算」にする本質
「それ用兵の道は、人の和にあり」の本質は、「個人の能力を足し算するのではなく、掛け算する組織をつくること」だと私は考えます。
個々の能力が高くても、協力がなければ力は分散します。
しかし、お互いを尊重し、助け合う関係ができれば、組織の力は想像以上に大きくなります。
チームでプレゼンテーションの準備をするときを考えてみましょう。
メンバーそれぞれが自分の仕事だけをこなしても、良い結果は生まれないかもしれません。
ところが、互いにアイデアを出し合い、弱点を補い合えば、一人では決して到達できない素晴らしい成果が出せます。
この言葉は、チームワークの真の価値を教えてくれているのです。
現代経営への応用:組織を成功に導く原則
「人の和」の教訓は、現代のビジネス、人間関係、日常生活に広く応用できます。
1. ビジネス組織論:公平性と主体性の醸成
プロジェクトを成功させるには、リーダーがメンバー全員の意見に耳を傾けることが大切です。
さらに、公平に評価することで、メンバーの不満を解消します。
個々の能力を尊重し、信頼関係を築くことで、メンバーは主体的に動きます。
その結果、チーム全体の生産性が向上します。
これは、現代の組織運営で最も重要な要素の一つです。
2. 危機管理(クライシス・マネジメント)への応用
企業が不祥事や市場の急変といった危機に直面したとき、「人の和」が真価を発揮します。
組織がバラバラであれば、危機対応は遅れ、事態は悪化する一方です。
しかし、強固な信頼関係で結ばれた組織であれば、部門間の垣根を越え、迅速かつ一丸となって対応できます。
平時からの「人の和」の構築こそが、最大の危機管理策となります。
3. グローバル組織の統合
企業がグローバル展開を進める際、異なる文化や価値観を持つメンバーの統合が大きな課題となります。
このとき、力で文化を押し付けるのではなく、「人の和」の精神で、相互理解を深めることが不可欠です。
リーダーは、多様な個性を活かしつつ、共通の目標という「和」でメンバーを結びつける必要があります。
これは、表面的なつながりではなく、深い信頼で結ばれた関係を築くプロセスです。
4. まとめ:信頼に基づいたリーダーシップ
「それ用兵の道は、人の和にあり」は、単なる兵法の教えではありません。
これは、どんな組織や集団においても、人々の心を一つにまとめることの重要性を教えてくれる言葉です。
もし、あなたがチームや組織を率いる立場にあるなら、この言葉を胸に刻み、まずは信頼関係を築くことから始めてみましょう。
専門用語解説
| 用語 | 読み方 | 解説 |
| 六韜 | りくとう | 中国の古典的な兵法書。伝説的な思想家、太公望(呂尚)が周の文王・武王に兵法や統治の知恵を説いたものとされています。 |
| 太公望 | たいこうぼう | 周の文王・武王を補佐し、周王朝の樹立に貢献したとされる伝説的な軍師・政治家。その思想は兵法や帝王学に大きな影響を与えました。 |
| 用兵の道 | ようへいのどう | 軍隊を指揮し、戦いに勝つための方法や原則のこと。「道」は、根本的な理念や真理を意味します。 |
| 人の和 | ひとのわ | 人々の心が一つにまとまり、互いに信頼し、協力し合う状態。組織や集団が最大の力を発揮するための最も重要な要素とされています。 |
| 周王朝 | しゅうおうちょう | 紀元前11世紀から紀元前256年まで続いた中国の王朝。太公望は周の建国期に活躍しました。 |
| 武田信玄 | たけだしんげん | 戦国時代の日本の武将。甲斐(現在の山梨県)を本拠地とし、「人は城、人は石垣、人は堀」という言葉で、人材の重要性を説きました。 |


