賞罰は身に加うるが如く、賦斂は己より取るが如し。

共感と責任のリーダーシップ:「賞罰は身に加うるが如く」の覚悟

あなたは、誰かを褒めたり罰を与えたりする際、どのような気持ちで行っていますか?

また、組織の資金や会費を徴収する立場になったとき、どのように振る舞うべきか考えたことはあるでしょうか?

「賞罰は身に加うるが如く、賦斂は己より取るが如し。これ民を愛するの道なり」

これは、日本の兵法書『闘戦経』に記された言葉です。

真のリーダーが持つべき覚悟と心構えを説いています。

この言葉は、リーダーが、人々を愛し、心から信頼されるためにはどうすべきかを教えてくれます。

すなわち、「賞罰と徴収を自分自身の痛みと思え」という、リーダーシップの根源的な原則を示しています。

真のリーダーの心得:原文と詳細な解説

この記事では、まずこの言葉の持つ深い意味を解説します。

古典の原文と現代語訳

この重要な一節は、リーダーの倫理観を確立させます。

原文

賞罰は身に加うるが如く、賦斂は己より取るが如し。これ民を愛するの道なり。

現代語訳

「褒美や罰を与えるときは、それが自分自身に与えられているかのように感じなさい。税金や徴収を行うときは、それが自分自身から取られているかのように感じなさい。これこそが、人々を心から愛する道である。」

詳細な解説:共感と節度の重要性

この言葉は、鎌倉時代末期から南北朝時代にかけて成立したとされる兵法書『闘戦経(とうせんきょう)』に記されています。

特に、この書は、中国の兵法とは異なり、日本独自の武士の精神や道徳観を強く説きました。

『闘戦経』は、リーダー(為政者)が人々を治める上で持つべき心構えを示しています。

1. 賞罰は身に加うるが如く

部下や民を褒めたり罰したりするとき、その喜びや痛みを、あたかも自分のことのように感じなさいということです。

なぜなら、単なる義務として賞罰を行うのは不十分だからです。

相手の感情に共感することで、公正かつ誠実に判断することができます。

2. 賦斂は己より取るが如し

税金や貢物(みつぎもの)を徴収するとき、それが自分自身の財産から取り立てられるかのように感じなさいということです。

したがって、徴収が人々の生活を苦しめることを理解するべきです。

無駄な浪費をせず、節度ある統治を行うための心構えを促します。

この言葉の核心は、リーダーが「共感(きょうかん)」の心を持つことの重要性です。

共感を持つことで、人々を道具としてではなく、一人の人間として大切に扱えます。

つまり、これが人々から心からの信頼を得るための道だと説いています。

生まれた歴史的背景:武士の道徳観

『闘戦経』が成立した時代は、武家社会が確立した時代です。

武士が実際に政治を行うようになりました。

その結果、武士たちは、単なる武力だけでなく、人々を治めるための道徳観や精神性を必要としました。

このような背景から、統治者としてのあるべき姿を説く『闘戦経』が生まれたのです。

類似の思想:「法の精神」にみる制度的保障

この『闘戦経』の思想に似た事例は、異なる文化圏の思想や政治にも見られます。

リーダーの個人的な資質だけでなく、システムとして「民を愛する」ことを実現しようとした例です。

たとえば、フランスの思想家、モンテスキューが提唱した「法の精神」です。(参考文献:モンテスキュー『法の精神』)

彼は、為政者が権力を乱用しないよう、権力を三つに分けました。

具体的には、立法、行政、司法の三権を分け、互いに抑制し合うべきだと説いたのです。

これは、リーダーが「賦斂」を乱用し、国民から過度な徴収を行わないようにする仕組みです。

したがって、この考え方は、リーダーの独断を許さず、人々を公正に扱うための制度的な保障と言えます。

『闘戦経』がリーダーの心構えを説いたのに対し、モンテスキューは制度でその公正さを担保しようとした点で共通しています。

現代の組織運営とリーダーシップへの応用

「賞罰は身に加うるが如く、賦斂は己より取るが如し」の本質は、「リーダーは、人々の痛みや喜びを自分のこととして捉えるべきだ」という点に集約されます。

この教訓は、現代のビジネスや組織運営において、多角的に応用できます。

1. 企業経営:人事評価と報酬体系

最高経営責任者(CEO)や管理職が人事評価を行うとき、この言葉を思い出すべきです。

具体的には、部下の成功を自分のことのように喜んで褒めるべきです。

なぜなら、部下はあなたを信頼するからです。

しかし、部下が失敗したとき、ただ厳しく叱ってはいけません。

なぜ失敗したのかを共に考え、その悔しさを自分のことのように感じてください。

その結果、部下はあなたを心から尊敬します。

さらに、賞与や昇給といった報酬(賞)は、それが自分の身に与えられるときのような公平性と感動を持って行いましょう。

2. 組織運営:資源配分と経費管理

組織の予算や経費(賦斂)を扱う際にも応用できます。

それは、会社のお金だからといって浪費してはいけません。

常に、その資金が従業員の労働(汗)や顧客からの貴重な対価(痛み)によって得られたことを認識すべきです。

したがって、無駄な支出を徹底的に避け、節度ある資源配分を行います。

これは、組織への信頼と持続可能性を高める最も重要な行動です。

3. チームのモチベーション管理

チームメンバーを厳しく叱責(罰)しなければならない場面もあるでしょう。

その際、罰の効力を最大限に高めるためには、リーダー自身が「罰を科す痛み」を感じるべきです。

つまり、感情的に怒るのではなく、冷静かつ厳粛に、チームの規範を破ったことによる組織全体の損失を理解させます。

このように、罰の行使にリーダーの責任感が伴うことで、メンバーはその罰を正当なものとして受け止め、成長の機会とします。

4. 顧客対応とCS(顧客満足)

サービスや製品の価格設定(賦斂)においても重要です。

顧客が支払う対価を、自分自身が支払うときのように感じてみましょう。

そうすれば、価格に見合った、あるいはそれ以上の価値を提供しようと尽力できます。

結果として、これが顧客からの長期的な信頼(愛される道)へと繋がるのです。

まとめ:リーダーシップは心のあり方で決まる

「賞罰は身に加うるが如く、賦斂は己より取るが如し。これ民を愛するの道なり」は、リーダーシップの本質を教えてくれる言葉です。

リーダーシップは、単なる権力行使ではなく、共感と責任に基づくものです。

この古代の教訓は、現代の複雑な組織を導く経営者にこそ必要です。

共感と責任感を持って人々に接しましょう。

そうすれば、あなたは真の信頼を勝ち取り、周囲の人々を動かすことができるでしょう。


専門用語の解説

専門用語解説
賞罰(しょうばつ)褒美(賞)を与えることと、罰(罰)を与えること。人事評価や統治における褒めたり懲らしめたりする行為。
賦斂(ふれん)賦課(ふか)と徴収(ちょうしゅう)を合わせた言葉。税金や貢物、組織における会費などを人々に割り当て、取り立てること。
闘戦経(とうせんきょう)鎌倉時代末期から南北朝時代に成立したとされる日本の兵法書。中国の兵法書とは異なり、武士の道徳や精神論を強く説いている。
為政者(いせいしゃ)政治を行う人、統治する立場にある人。この記事では、組織を率いるリーダーや経営者を指す。
モンテスキュー18世紀フランスの啓蒙思想家。主著『法の精神』で、権力の濫用を防ぐための三権分立(立法、行政、司法)を提唱した。