「賞は信を貴び、罰は必を貴ぶ」:組織の士気を高める鉄則

導入

あなたは部下のモチベーションが低下していると感じていませんか?

あるいは、ルールが形骸化し、組織の規律が緩んでいませんか?

その原因は、評価や懲罰の「公平性」にあるかもしれません。

「賞は信を貴び、罰は必を貴ぶ」という古典的な教えは、組織統治の根幹を示します。

この原則が、いかにして現代の組織の士気と信頼を構築するのかを解説します。


古典の現代語訳と詳細な解説

原文の現代語訳

この言葉は、中国の『六韜』(りくとう)という兵法書に由来する思想を基にしています。

特に、『六韜』の「竜韜」における「賞は信、罰は必」という原則から派生しました。

現代語に訳すなら、以下のようになります。

「褒美(賞)を与える際は、約束(信)を守ることが最も重要である。罰(罰)を与える際は、過ちを犯したら必ず行うことが最も重要である。」

詳細な解説

この教えは、賞罰という組織の規範が、機能するための二つの絶対的な条件を示します。

  • 賞は信を貴ぶ:成果に対する報奨は、事前に示した基準や約束通りに行います。理由なく報奨を渋ったり遅らせたりすれば、組織への忠誠心や努力が無意味になります。信は期待と動機を担保します。
  • 罰は必を貴ぶ:定めたルールを破った者は、地位や個人的な感情に関わらず必ず処罰します。「必」は例外を認めない一貫性を意味します。罰が曖昧だと、規律が崩壊し、真面目な人間が損をするという不公平が生じます。

この原則を守ることで、組織の構成員は報奨も罰則も予測できます。したがって、安心感と公平感が生まれます。

歴史的背景と文脈

『六韜』は、中国の周の太公望(たいこうぼう)の兵法を記したとされる古典です。成立は戦国時代(紀元前5世紀〜紀元前3世紀)頃と推定されています。

この時代は、各国が生き残りをかけて軍備を競いました。軍隊という巨大な組織を統率するためには、公正で一貫した規律が絶対に必要でした。

特に、罰則が厳格で必ず実行されることは、兵士に規律を守らせ、無謀な行動を抑制する上で極めて重要でした。信と必の原則は、統治の基本として古代の思想家たちに共有されました。


内容を裏付ける歴史上の具体的な事例

この原則が組織統治に与える影響は絶大です。西欧の軍事指導者の事例を紹介します。

事例:アテナイのペリクレスの倫理的統治

出典:トゥキディデス『戦史』

古代ギリシャの都市国家、アテナイの指導者、ペリクレスは、民主政の最盛期を築きました。彼の統治は、倫理的な公平性が特徴でした。

彼は、市民に対する公共事業への報酬や、軍事的な功績への報奨を約束通り実行しました。したがって、市民は国家への協力に強い「信」を抱きました。

一方、公的な規律や法を破った者には、身分を問わず厳格に処罰を下しました。彼自身も、公私の区別を厳しく守り、私的な利益のために国庫を使おうとはしませんでした。

この「信」と「必」の両立が、アテナイ市民の一体感と士気を高め、当時のアテナイを地中海随一の強国へと押し上げました。もし、ペリクレスが約束を破ったり、不正を見逃したりすれば、民主政の基盤は崩壊していたでしょう。


私の感想 / 私見(考察・解釈)

現代に通じる本質

この教えの本質は「予測可能性」と「相互信頼」です。

組織のメンバーは、努力すれば報われ、不正をすれば必ず罰せられる「予測」を求めます。

この予測が裏切られたとき、組織の基盤となる「信頼」は崩壊します。

日常生活での共感

仕事で残業や休日出勤を頑張ったのに、上司が約束した代休や昇給が曖昧になる経験はあるかもしれません。

また、明確なルール違反をした人物が、権力者との関係で処罰を免れたときの「やりきれなさ」も共通の感情です。

つまり、約束が守られない組織では、真面目に頑張る意欲が失われます。不信感は「士気」を下げる最も強力な毒です。


現代への応用

この原則は、現代の人事、評価、そしてコンプライアンスの分野で直接的に応用されます。

応用事例1:公正な人事評価と報酬制度(賞は信を貴ぶ)

人事評価の透明性と一貫性を確保します。事前に設定した目標と報酬のルールを変更してはいけません。

例えば、「売上目標を達成したらボーナスを支給する」と約束したら、業績が悪化してもその約束は守ります。なぜなら、約束を破ると次の目標へのコミットメントが失われるからです。

したがって、評価基準は主観を排除した客観的な指標に基づくことが重要です。

応用事例2:コンプライアンスの徹底(罰は必を貴ぶ)

組織のコンプライアンス(法令遵守)を徹底します。不正行為やハラスメントは、地位や貢献度に関わらず例外なく罰則を適用します。

重要なのは、「あの人は特別だから許された」という例外を作らないことです。もし、罰則が曖昧になれば、組織のルールは意味を持ちません。

これは、組織のリスクを最小限に抑え、外部からの信頼を維持する上で不可欠な措置です。

応用事例3:目標設定と実行(マネジメント)

日常のマネジメントにおいても、この原則は活用できます。

目標を設定する際は、達成した場合の「賞」(信)を明確にします。一方、怠慢やルール違反があった場合の「罰」(必)も明確にします。

つまり、曖昧な期待や感情で対応するのではなく、事前に定めた基準に基づいて一貫した態度を示すことが大切です。


専門用語の解説

用語読み方解説
賞は信を貴び、罰は必を貴ぶしょうはしんをとうとび、ばつはひつをとうとぶ褒賞を与える際は約束を忠実に守り、罰を与える際は必ず実行し一貫性を持つべきであるという、組織統治の原則です。
六韜りくとう中国の古典的な兵法書の一つです。太公望(呂尚)が周の文王に兵法を説いたという形式で書かれています。
太公望たいこうぼう中国の周の時代に仕えたとされる伝説的な軍師、呂尚(りょしょう)のことです。
ペリクレスペリクレス紀元前5世紀頃、古代ギリシャのアテナイの指導者として活躍し、アテナイの最盛期を築きました。
コンプライアンスコンプライアンス法令や社会規範、企業倫理などを遵守することを指します。特に組織運営の健全性を示す重要な概念です。

記事のまとめ

「賞は信を貴び、罰は必を貴ぶ」の原則は、組織の信頼を築く二本の柱です。

信はモチベーションを生み、必は規律を維持します。したがって、曖昧な運用は組織の崩壊を招きます。

あなたのリーダーシップにおいて、この二つの原則を徹底してください。それが強固で公平な組織の基盤を作り上げます。